研究プロジェクトの概要

日本公民教育学会では、平成26(2014)年4月から平成29(2017)3月までの3年間の計画で、研究プロジェクトを開始しました。なお、研究プロジェクトを実施するにあたっては、日本学術振興会の科学研究費の研究助成を受けております。

  研究種別:基盤研究(B)
  研究期間:平成26〜28年度(3年間)
  研究題目:現代社会の課題を考察する見方や考え方を身に付けさせる公民教育カリキュラムの再構築
  研究代表者:唐木清志(筑波大学)

 社会が大きく変化する中で、公民教育の役割はますます重要になってきています。現代社会に生じるさまざまな課題を児童生徒にしっかりと考えてもらうことが、われわれ一人ひとりが社会の担い手となり、誰もが安心して暮らすことのできる社会を創造するのに必要な取り組みだと考えられるからです。 これまでも、学校における公民教育では、現代社会の課題を教材として取り上げてきました。環境問題、紛争問題、南北問題などに関するユニークな教材が全国各地で開発され、数多くの実践報告がなされてきました。これらの貴重な授業実践を高く評価する一方で、さらに多くの先生方が自信を持って授業に望めることを願い、本研究は企画されました。  研究プロジェクトを企画するにあたり、まず注目したのが「見方や考え方」です。具体的には、「学習指導要領」の次の箇所が該当します。

  中学校(公民的分野):人間は本来社会的存在であることに着目させ、社会生活における物事の決定の仕方、きまりの意義について考えさせ、現代社会をとらえる見方や考え方の基礎として、対立と合意、効率と公正などについて理解させる。その際、個人の尊厳と両性の本質的平等、契約の重要性やそれを守ることの意義及び個人の責任などに気付かせる。(2 内容 (1)私たちと現代社会 イ 現代社会をとらえる見方や考え方)

  高等学校(現代社会):現代社会の諸課題を扱う中で、社会の在り方を考察する基盤として、幸福、正義、公正などについて理解させるとともに、現代社会に対する関心を高め、いかに生きるかを主体的に考察することの大切さを自覚させる。(2 内容 (1)私たちの生きる社会)

 研究プロジェクトでは、「対立と合意、効率と公正」や「幸福、正義、公正」の他にもさまざまな見方や考え方が必要であると考えています。その上で、現代社会の課題は、複数の見方や考え方が葛藤を起こしたり、相互に結び付いて複雑化したりすることで、その解決が難しくなっていると捉えました。なお、研究プロジェクトで予め設定した見方や考え方は、12個あります。それは、「正義」「平等」「社会参画」「幸福」「自由」「効率」「グローバリズム」「多様性」「持続可能性」「生命」「公正」「ナショナリズム」です。また、現代社会の課題も、12個設定しました。それは、「若者の貧困と社会的排除」「超少子高齢化と社会保障」「東日本大震災からの復興支援」「地方の衰退と町づくり」「財政危機と金融政策」「限りある資源とエネルギー政策」「グローバリゼーション下の産業と貿易」「地域紛争と民族的・宗教的多様性」「持続可能な開発と地球温暖化」「科学技術の発展と生命倫理」「情報社会とメディアリテラシー」「グローバリズム・ナショナリズムとアイデンティティ」です。

 研究プロジェクトでは、最終的な目標を「公民教育カリキュラムの再構築」に置いています。そして、その最終目標に向けて、授業づくりと実践を繰り返します。授業づくりは、12個の見方や考え方と12個の現代社会の課題を組み合わて行うことになります。例えば、先の「若者の貧困と社会的排除」という課題であれば、非正規雇用の増加で若者の貧困が拡大するという具体的な題材に対して、そこには企業側の「効率」を大切にする考え方と若者側の「公正」を大切にする考え方が葛藤を起こし、両者の葛藤から課題が発生していることを理解させた上で、日本の将来を考えるにあたっては「効率」と「公正」のどちらの見方や考え方(価値)を優先することが望ましいか、生徒が自律的に判断する授業を展開することになります。

 研究プロジェクトは、日本公民教育学会の学会員による主体的な参加によって運営されます。本ホームページでは、研究プロジェクトの進捗状況を適宜報告していくつもりです。関心を持たれた方はぜひ日本公民教育学会に加入して、研究を盛り上げていただければと思います。
文責:唐木清志
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